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生物と無生物のあいだ 福岡 伸一

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書 1891)
福岡 伸一

●「日本エッセイストクラブ賞」あげてほしい
『プリオン説はほんとうか?』の著者の新書を本屋で見かけたので購入。文章うまいねぇ。すらすらと楽しく読めた。

内容は、生物学の発展のエピソード、DNAが遺伝情報の担体であること、シャルガフの通則、DNA構造、体内物質が常に置き換わっていること、などの発見の生物学的な解説と発見者の人間模様の紹介が、著者自身のアメリカでの研究生活の思い出のエッセイとともに綴られている。

生物学については、必要充分な解説が適切に示されているので、結果だけでなく、なぜそう言えるのかまで分かるのは、著者自身の深い理解がなせる技であると感じられた。

一方、著者の自伝的部分は藤原正彦の『若き数学者のアメリカ』の生物学版という風情がある。自らの研究の解説とそのときの気分の情緒的な描写のバランスが素晴らしい。それに、アメリカの研究者がどのように研究を進めているか、わが方とどこが違うかが垣間みられるのも興味深かった。

ただ、本書が新書として出版されたことに少し違和感を覚えた。生物学の素晴らしい解説書であることは100%認めるが、全体としてはエッセイとしての側面が強いと感じたのだ。文学なら文庫の方がふさわしい。この辺は、私の感じる新書の分類の方が遅れているのかもしれないが。いずれにせよ、本書が「日本エッセイストクラブ賞」をもらったら素晴らしいと思う。

●目次を紹介いたします
まずは、本書の目次を以下に示します。全15章仕立てです。
内容を勘違いして購入する人が多いみたいなので、ここから少しは内容を汲み取れると良いなぁと思います。

著者自身のポスドクのときの研究生活と重ね合わせた、分子生物学と細胞生物学の表面をなぞるお話になります。
(かっこ)内は私が付けた補足です。

プロローグ
第1章 ヨークアベニュー、66丁目、ニューヨーク(著者が降り立った地)
第2章 アンサング・ヒーロー(歌われることのない英雄)
第3章 フォー・レター・ワード(DNAのA、T、G、Cのことです)
第4章 シャルガフのパズル(DNA研究のお話)
第5章 サーファー・ゲッツ・ノーベルプライズ(PCR装置を発明した人)
第6章 ダークサイド・オブ・DNA(研究者の心の闇、疑惑など)
第7章 チャンスは、準備された心に降り立つ(どんな人間が大発見をするのか)
第8章 原子が秩序を生み出すとき(シュレーディンガーのお話)
第9章 動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)とは何か
第10章 タンパク質のかすかな口づけ(くっついたり離れたり…)
第11章 内部の内部は外部である(分泌顆粒のお話)
第12章 細胞膜のダイナミズム(著者のチームの膵臓細胞の研究)
第13章 膜にかたちを与えるもの(著者のチームの膵臓細胞研究)
第14章 数・タイミング・ノックアウト(ノックアウトマウスなどのお話)
第15章 時間という名の解けない折り紙(機械と生命のちがいなど)
エピローグ(著者の感慨と感傷など…)

私は最初、この本を読む予定はなかった。ノーマークだったのだ。
しかし、この本の題名から勝手に内容を妄想して購入した家族が読んだ後に、偶然お下がりとして譲り受け、なんの先入観もなくたまたま読んでみた次第である。

かくして、家族が言うには「(題名から)想像していた本とは違った」ようであるが、私としては思いがけない掘り出し物の感あり、楽しく読め、思いがけず面白かった。
読者層として最適なのは、高校生物を学び終わった高校生から、生化学や分子生物学、細胞生物学を学ぼうとする大学教養程度ではなかろうか。

理系(特に生物系やら生命科学系、医学系など)では有名な話であるが、ワトソンとクリックのDNAの二重らせん構造の発見などの裏話が読める。

著者自身の研究生活と、科学史とが、詩的な表現によって語られる科学エッセイのような体裁であるが、生物系の研究者を目指そうかという人たちにも何らかの参考になる部分も多いと思う。

本の帯に茂木健一郎氏が推薦文を寄せているが、「福岡伸一さんほど生物のことを熟知し、文章がうまい人は稀有である。サイエンスと詩的な感性の幸福な結びつきが、生命の奇跡を照らし出す」といった内容なのであるが、確かに著者は文章がうまい。
そしてこの茂木健一郎氏の推薦文は正鵠を得ている。

この本が面白く読めた人なら、立花隆と利根川進の対談の体裁の「精神と物質」という本も面白いと思います。本書と同じ系統の本です。利根川進のノーベル賞受賞のきっかけとなった研究の詳細がわかりやすく述べられます。こちらは、高校生物ぐらいの免疫の知識があるとより面白いですね。

●分子生物学って面白い
現代の専門化した科学は、細分化されすぎて何がなんだかわからない。分子生物学だって、語り方によってはそう感じられた分野だろう。

なのに、なんて面白いのか。こんなにわかりやすく専門分野について語り、更に生物とは何か、という大テーマに迫っていく。DNAやRNAについても、適切な例えを用いて、ストンと腑に落ちた。中学校以来今まで何度も習っていながら、何ともつかみ所のない感じがしていたのに…。
理系オンチで文学馬鹿の私にも、とっても面白く読めました。知的興奮がありました。


生物と無生物のあいだ (講談社現代新書 1891)


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